アメリカにコンドミニアムや賃貸住宅を所有していた親や家族から不動産を相続した日本人の方から、次のようなご相談をいただくことがあります。
- 「相続したアメリカ不動産を売却すると税金はいくらかかるのでしょうか?」
- 「親が昔安く買った物件ですが、その購入価格を基準に税金が計算されるのでしょうか?」
- 「日本に住んでいますが、日本でも確定申告が必要ですか?」
相続したアメリカ不動産の売却には、
- Step-Up in Basis(取得価額の見直し)
- Capital Gain Tax(譲渡益課税)
- Depreciation Recapture(減価償却戻し税)
- FIRPTA(外国投資家不動産税法に基づく源泉徴収)
- 州税
- 日本の確定申告
- 為替変動の影響
- 外国税額控除
など、複数の税務論点があります。
さらに重要なのは、
米国と日本では、相続不動産の取得価額(Basis・取得費)の考え方が異なる
という点です。
本記事では、日本人相続人が知っておきたい重要なポイントを分かりやすく解説します。
■ 結論
相続したアメリカ不動産を売却する場合、
米国では相続時の時価(Fair Market Value)が取得価額の基準となることがありますが、日本では原則として被相続人(親)の取得費を引き継ぎます。
つまり、
米国では譲渡益が小さくても、日本では想定以上に大きな譲渡所得が発生することがあります。
そのため、
- Step-Up in Basis
- FIRPTA
- 州税
- 日本の譲渡所得税
- 為替変動
- 外国税額控除
まで含めて総合的にシミュレーションすることが重要です。
■ Step-Up in Basisとは?
米国では、相続した資産について、一定の場合に税務上の取得価額(Basis)が被相続人の死亡時の公正市場価値(Fair Market Value)を基準として見直されます。
これが一般に
Step-Up in Basis
と呼ばれる制度です。
長期間保有されていた不動産ほど、この制度の影響は大きくなります。
例えば、
- 親が1995年に300,000ドルで購入
- 2026年死亡時の時価:1,200,000ドル
- 相続人が1,250,000ドルで売却
というケースでは、
単純に
1,250,000 − 300,000
で譲渡益を計算するとは限りません。
一定の条件のもとでは、
死亡時の時価(1,200,000ドル)
を新たな取得価額として計算することがあります。
ただし、共同所有の形態、所有構造、適用される税法などによって取り扱いが異なる場合があるため、個別の確認が必要です。

■ ケーススタディ
例えば、
- 親の購入価格:300,000ドル
- 死亡時の時価:1,200,000ドル
- 売却価格:1,250,000ドル
というケースを考えます。
米国でStep-Up in Basisが適用される場合、
取得価額は1,200,000ドルを基準として考えられるため、
譲渡益は概ね
1,250,000 − 1,200,000 = 50,000ドル
を基準に検討することになります。
一方、日本では原則として被相続人の取得費を引き継ぐため、必ずしも同じ結果にはなりません。
この日米の違いが、相続不動産売却で最も重要なポイントの一つです。
■ 日本ではStep-Up in Basisはそのまま適用されない
ここは多くの方が誤解しやすいポイントです。
日本では、相続した土地や建物の取得費は、原則として被相続人が取得したときの取得費を引き継ぐことになります。
つまり、
米国でStep-Upにより譲渡益が小さくなっていても、
日本では
- 親の購入価格
- 当時の取得費
- 被相続人の取得時期
を基準として譲渡所得を計算するため、
日本側ではより大きな譲渡所得が発生する可能性があります。
■ 為替リスクにも注意
日本の確定申告では、
取得費・売却価額ともに円換算して譲渡所得を計算します。
そのため、
米ドルベースでは利益がほとんどなくても、
円安が進んでいる場合には、
日本側では譲渡所得が大きくなることがあります。
これは日本国外の不動産(海外不動産)を売却する日本居住者が見落としやすいポイントです。
■ Depreciation Recaptureとの関係
相続した不動産が賃貸として利用されていた場合は、減価償却の影響も確認する必要があります。
米国でStep-Up in Basisが適用される場合、相続人は新しいBasisを基準として減価償却を開始することになります。
そのため、通常は被相続人が生前に計上した減価償却が、そのまま相続人の売却時のDepreciation Recaptureとして引き継がれるわけではありません。
一方で、
相続後に相続人自身が減価償却を行った部分については、売却時のDepreciation Recaptureの対象となる可能性があります。
所有形態や税務上の事情によって例外もあるため、Depreciation Scheduleの確認が重要です。
■ FIRPTAは関係ある?
あります。
相続によって取得した不動産であっても、
売却時点で売主が米国税務上の外国人に該当する場合は、
FIRPTAが適用される可能性があります。
原則として、
Amount Realized(通常は売却代金に近い金額)の15%
が源泉徴収の対象となります。
ただし、
一定の居住用住宅の例外などでは10%となる場合や、一定の条件を満たせば源泉徴収が免除される場合もあります。
売却前には、Withholding Certificateなどを含めた事前検討をおすすめします。
■ 州税も忘れてはいけない
物件所在地によっては、
連邦税とは別に州税も発生します。
例えば、
カリフォルニア州
- 州所得税
ハワイ州
- HARPTA
- ハワイ州所得税
などが問題となります。
州によって制度は大きく異なります。

■ 日本の確定申告は必要?
日本居住者が相続したアメリカ不動産を売却した場合、
原則として日本でも譲渡所得の申告が必要になります。
さらに、
アメリカで納付した税金については、
一定の条件を満たせば外国税額控除を利用できる可能性があります。
ただし、
アメリカで支払った税金がそのまま全額控除できるとは限りません。
所得状況などに応じて限度額が計算されます。
■ 日本では「相続税の取得費加算」の特例も確認
日本で相続税を納付している場合、
一定の要件を満たすと、
支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費へ加算できる可能性があります。
この制度を利用できるかどうかで、
日本側の譲渡所得税額が変わることもあります。
相続税を納付している場合は、この特例の適用可否も確認しておくことが重要です。
■ 相続税と譲渡所得税は別
よくある誤解ですが、
- 相続税(日本)
- Estate Tax(米国)
と、
- Capital Gain Tax
- Depreciation Recapture
- 州税
- FIRPTA
- 日本の譲渡所得税
は、それぞれ異なる制度です。
相続税の手続きが終わっていても、
売却時には改めて税務上の検討が必要になります。
■ よくある誤解
① 親の購入価格で米国の税金も計算される
必ずしもそうではありません。
米国ではStep-Up in Basisが適用される場合があります。
② 日本でもStep-Up in Basisがそのまま使える
日本では原則として被相続人の取得費を引き継ぎます。
③ ドル建てで利益が少ないから日本でも税金は少ない
日本では円換算で譲渡所得を計算するため、為替変動の影響を受けます。
④ 相続した物件だからFIRPTAは関係ない
売却時点で外国人売主に該当する場合は、FIRPTAが適用される可能性があります。
⑤ 相続税と売却時の税金は同じ
別の制度です。
⑥ 相続したらすぐ売却した方が得
税金だけでなく、
- 家賃収入
- 将来の値上がり
- 為替
- 管理負担
- 相続人の資産計画
まで含めて判断することが重要です。
■ 売却前チェックリスト
- 相続関係書類
- 死亡日時点の不動産評価資料
- 親の購入時のClosing Statement
- 相続前後のDepreciation Schedule
- 改良費の資料
- 過去のTax Return
- FIRPTA対策の確認
- 州税の確認
- 日本側の取得費・為替レートの整理
- 外国税額控除・取得費加算特例の確認
■ まとめ
相続したアメリカ不動産を売却する場合、
最も重要なのは、
米国のStep-Up in Basisと、日本の取得費の考え方は異なる
という点です。
さらに、
- FIRPTA
- Depreciation Recapture
- 州税
- 日本での譲渡所得税
- 為替変動
- 外国税額控除
- 相続税の取得費加算特例
まで含めて、
税引後に最終的にいくら手元に残るのかを事前にシミュレーションすることが重要です。
「相続したからすぐ売却する」「長期保有する」といった判断ではなく、
税務・資産運用・家族の状況を総合的に考えて、最適な選択を行うことをおすすめします。
■ ご相談について
当社では、日本人アメリカ不動産オーナーおよび相続人向けに、
- 相続不動産売却時の税額シミュレーション(米ドル・日本円)
- Step-Up in Basisに関する論点整理
- FIRPTA・HARPTA対策
- 州税の検討
- 日本の譲渡所得税・為替リスクの検討
- 外国税額控除・取得費加算特例の論点整理
- 売却・保有・リファイナンスの比較
をサポートしています。
「相続したアメリカ不動産を売却すると最終的にいくら手元に残るのか知りたい」
「売却するべきか、それとも保有を続けるべきか相談したい」
という方は、お気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、税務・法務・投資に関する個別アドバイスではありません。相続財産のBasis、取得費、課税関係は、被相続人・相続人の居住地、所有形態、適用法令、租税条約その他の個別事情によって異なります。具体的な判断については、米国CPA、日本の税理士、弁護士等の専門家へご相談ください。

